今回は、「ツイストペアケーブルの解説と種類(UTPケーブルとSTPケーブルの違い)」についての説明です。
1.初めに
ケーブル内の心線(電線)にて、2本の心線を螺旋状に撚り合わせることを1対や1Pと呼びます。
この撚り合わせた電線ペアのことをツイスト線と呼びます。
そして、このツイスト線を内蔵したケーブルのことをツイストペアケーブルと呼びます。
[twist(捻じる・撚る)]して[pair(対)]にしたケーブルなので、名称通りのケーブルとなっていますね。
ツイストペアケーブルは通信用ケーブルの種類の1つで、最も一般的な使用例はLANケーブルです。
パソコンをインターネットに繋ぐときに有線で接続するアレです。
今回は、そんなツイストペアケーブルの種類であるUTPケーブルとSTPケーブルについて解説していこうと思います。
2.UTPケーブルとは?
UTPケーブルの“UTP”とは、[Unshielded Twist Pair cable]の略称です。
要は、シールド処理をしていないツイストペアケーブルのことです。
一般的なLANケーブルはUTPケーブルです。
ケーブルとは、絶縁電線を複数束ねてシース(保護外被膜)を施したもののことです。
この絶縁電線の中を電気信号が通過することで通信ができているわけですが、“絶縁”電線といっても完全にノイズを遮断できるわけではありません。
そこで、電線からのノイズの発生及び外部から電線へのノイズの伝播を減らすためにシールド処理というものを施している場合があります。
UTPケーブルの場合、このシールド処理を行っていません。
シールド処理を行うとノイズに対して強くなりますが、その分コストが上がってしまいます。
パソコンをインターネットに繋ぐためのLANケーブルなど、私たちが日常的に使用する程度の用途ならノイズを気にする必要は特に無いです。
そんな用途の場合はUTPケーブルで事足りるので、UTPケーブルが率先して使用されています。
3.STPケーブルとは?
STPケーブルの“STP”とは、[Shielded Twist Pair cable]の略称です。
要は、シールド処理をしているツイストペアケーブルのことです。
UTPケーブルにシールド処理を行うとSTPケーブルになると思えばOKです。
シールド処理を行っているケーブルの場合、編組線で電線を覆って、それを接地するような構成になっています。
原理としては、導体である編組線にノイズを受け取ってもらって、それをGNDに逃がしているだけです。
編組線に包まれた電線は電線被覆(絶縁体)に覆われているので、より電気の流れやすい編組線を外来ノイズが伝っていきます。
内部電線から発生するノイズに関しても同様で、ケーブルのシース(これも絶縁体)より編組線に優先的に電気が流れるというだけの話です。
前述した通り、日常生活で使用する分にはUTPケーブルで事足りるので、私たちがSTPケーブルを目にする機会はほぼ無いです。
では、どんな所ならSTPケーブルが配線されているのかと言うと、工場や車載用途などの特殊な環境下に限定されます。
電線の周りに精密機器が配置されていたり、明らかにノイズの多そうな現場に配線する場合は、UTPケーブルを使用していることがあるのです。
ちなみに、シールド処理ではあるものの、編組線ではなく薄い金属薄膜を使用している場合はFTPケーブルと呼びます。
4.FTPケーブルとは?
FTPケーブルの“FTP”とは、[Foiled Twist Pair cable]の略称です。
[Foiled]は[金属の箔]のことです。
アルミホイルみたいなヤツです。
その薄い金属の箔でシールド処理をしているツイストペアケーブルがFTPケーブルです。
シールド処理を施したツイストペアケーブルにはSTPケーブルとFTPケーブルがあるわけですね。
5.STPケーブルとFTPケーブルの命名則
STPケーブルもFTPケーブルもTP(ツイストペア)の前に[Shielded]やら[Foiled]を付けただけの命名則になっていますよね?
実は、この位置だけに“S”や“F”が付く場合は、“ツイスト線ごとのシールドの種類”を表しています。
どういうことかと言うと、ツイスト線ごとにシールド処理はされているけど、複数のツイスト線を用いたケーブルだった場合はツイスト線をまとめてシールド処理はされていないんです。
要するに、ケーブルのシースのすぐ内側にはシールド処理がされていないんです。
以下の図で例えると、電線1つ1つをシールド処理してあるのであって、電線7本をまとめてシールド処理してあるわけではないということです。
ツイスト線に対するシールド処理だけで充分な場合が多いのですが、どちらにもシールド処理を施したいこともあります。
その場合の命名則は、以下のようになります。
“全体へのシールド処理の種類”/“ツイスト線へのシールド処理の種類”TP
例えば、各ツイスト線をそれぞれ編組線でシールド処理した上で全てのツイスト線をまとめて薄い金属膜でシールド処理した場合、F/STPケーブルという名称になります。
各ツイスト線をそれぞれ薄い金属膜でシールド処理した上で全てのツイスト線をまとめて編組線でシールド処理した場合、S/FTPケーブルという名称になります。
同様の理論で、S/STPケーブルとF/FTPケーブルも存在します。
そして、全てのツイスト線をまとめてシールド処理しない場合は、「“全体へのシールド処理の種類”/」の部分が消えるのです。
スラッシュごと消えるんですね。
まあ、[Unshieldedを意味する「U/」がくっついている場合もありますけどね。
STPケーブルとFTPケーブルの命名則について解説してきましたが、実は根本からそれらを覆す事象があったりします。
規格上の正式名称としては、シールド処理をされたツイストペアケーブルのことをFTPケーブルと呼ぶらしいのです。
[Foiled(金属の箔)]の癖に編組線でもFTPケーブルになるのです。
そんな変なことをしているためか、勘違いに勘違いを生んで大分カオスなことになっています。
企業ごとに表記方法がバラバラなのです。
一般的に根付いた呼び名としては、シールド処理したツイストペアケーブルがSTPケーブル、シールド処理していないツイストペアケーブルがUTPケーブルとなっていて、FTPケーブルについては調べても大した情報が出て来なかったりします。
意味不明でしょう?
その為、とりあえず命名則を覚えておいた上で、実際に使用するケーブルの仕様書をよく読むのが一番の解決策だったりします。
ケーブル構造が図示してあるはずですからね。
6.そもそも何故ツイストするのか?
ツイストペアケーブルはその名の通りツイストした電線を使用しているわけですが、素朴な疑問として、『何故ツイストしているの?』と思いませんか?
ツイストしている理由は、ツイストするとノイズに強くなるからです。
シールド処理とはまた別に、ツイストすることもノイズ対策の一環なのです。
では、何故ツイストするとノイズに強くなるのかの説明をしていきます。
先に結論を簡潔に述べると、ツイストするとノイズ起因の余計な電流が流れなくなるからです。
電線をツイストすると、線と線の間に隙間ができ、外乱ノイズはこの隙間を通過するようになります。
外乱ノイズは磁束(磁界)に当たるので、その磁束の方向に対応した誘導電流が電線に流れます。
例えば、図2のような向きにノイズ(磁束)が発生していたとします。
この時の①と②の部分の電流の向きを考えてみます。
考え方は単純で、「右ネジの法則」を使うだけです。
右手でサムズアップ👍した時に、親指が電流(磁束)、残りの指の向きが磁束(電流)の方向を示すという法則です。
詳しくは以下の記事を参照してください。
今回は親指を電流の向きと考えて親指が赤と青の電線に重なるようにして、残りの指が奥から手前方向に巻かれるような向きにあてがいましょう。
そうした時の電流の流れは、図3のような向きになります。
すると、①と②のように同じ電線でも場所によって電流の流れる向きは反転していることがわかります。
つまり、電線をツイストしておくと、外乱ノイズによって電線に発生する電流が打ち消し合って流れにくくなることがわかります。
だからノイズに強いのです。
また、電線に関わってくるノイズは外乱ノイズだけではありません。
電線を通過する電気信号によって発生する磁束の影響も考慮する必要があります。
ツイストペアにする信号線は、互いに逆位相となる信号を対象にしていることが多いです。
いわゆる差動信号というヤツです。
差動信号になっていると、信号の流れる向きがお互いに反転している状態になります。
要は、図4のような向きに電流が流れ、磁束が発生するようになります。
磁束の発生向きはまた「右ネジの法則」を使っただけです。
すると、信号によって発生する磁束の向きが交互に反転することがわかります。
その為、磁束が隣同士で打ち消し合うようになり、電線から発生するノイズも抑えることができるのです。
これがツイストする理由です。
ただし、「抑える」のであって、全てを消去できるわけではありません。
だから更なる対策としてシールド処理などを施しているのです。
以上、「ツイストペアケーブルの解説と種類(UTPケーブルとSTPケーブルの違い)」についての説明でした。