今回は、「IC-VCE特性」についての補足説明です。
1.トランジスタのIC-VCE特性の復習
復習になりますが、トランジスタのコレクタ電流ICとコレクタ-エミッタ間電圧VCEの特性グラフのことを出力特性と呼びます。
出力特性は、以下のようなグラフになります。
※使用するトランジスタや接地方式によってグラフの形は異なります。

これは、ベース電流IBを一定に保った時のIC-VCE特性の関係を表したグラフです。
この特性グラフは、以下の3つの領域に分けることができます。

ベース電流IBが一定なら、コレクタ-エミッタ間電圧VCEによらずにコレクタ電流ICが一定となる領域。
言い換えると、ベース電流IBでコレクタ電流ICが決まる領域です。
ベース電流IBを大きくしてもコレクタ電流ICが増加しない領域。
コレクタ-エミッタ間電圧VCEが小さくても、コレクタ電流ICが流れる領域とも言われる。
ベース電流IBが0[A]でもコレクタ電流ICが0[A]にならず、漏れ電流がわずかに流れる領域。
漏れ電流が大きくてもメリットは無いので、特性の良いトランジスタほど遮断領域が狭くなります。
トランジスタを信号増幅用途で使用する場合は活性領域、スイッチ用途で使用する場合は飽和領域(スイッチONの状態)と遮断領域(スイッチOFFの状態)を使用します。
ちなみに、コレクタ-エミッタ間には抵抗成分があるため、コレクタ-エミッタ間電圧が0[V]になることはありません。
このわずかに発生する最小電圧のことをコレクタ飽和電圧VCE(sat)と呼びます。
また、ベース電流IBが0[A]でも発生する漏れ電流のことをコレクタ遮断電流ICEOと呼びます。
今回は、このIC-VCE特性のグラフとコレクタ抵抗RCの関係やコレクタ飽和電圧の補足説明などをしていきます。
2.IC-VCE特性とコレクタ抵抗の関係
例えば、以下のような回路を組んだとします。

トランジスタをスイッチングさせるためのVBEを基準として交流電源をベース端子に印加し、スイッチング動作をさせる回路です。
このトランジスタのIC-VCE特性は以下のようになっていたとします。

トランジスタがONになっている時は、トランジスタから向かって右側の回路が繋がります。
つまり、VCC-RCIC=VCEという式が成り立ちます。
この関係を、IC-VCE特性グラフ上に描いてみます。
条件は、VCC=10[V]、RC=2[kΩ]だとします。

この線のことを負荷線と呼びます。
ここで、条件をVCC=10[V]、RC=1[kΩ]に変えてみた時の負荷線はどうなるかも図示してみます。

コレクタ抵抗RCを変化させたら、負荷線の傾きも大きく変化しましたね。
結果として、コレクタ電流ICとコレクタ-エミッタ間電圧VCEとベース電流IBの関係性がゴッソリ変わります。
このように、負荷線を描くことでコレクタ抵抗の値による影響が見て取れるようになります。
ちなみに、負荷線においてVCEが最大である点はコレクタ抵抗にかかる電圧が0[V]の時なので、VCCを表しています。
演習問題にて負荷線が与えられていた場合、そこから電源電圧であるVCCを読み取る必要があったりしますので、覚えておくと良いかと思います。
3.コレクタ飽和電圧の補足説明
負荷線を描いてみると、コレクタ飽和電圧VCE(sat)が何を意味するのか理解しやすくなります。
ベース電流IBをいくら増やしてもコレクタ電流ICが増えなくなる領域が飽和領域でした。
以下の図で青丸で囲った辺りですね。

IC-VCE特性グラフを見ればわかる通り、基本的にはベース電流IBを大きくすればするほどコレクタ電流ICも大きくなり、コレクタ-エミッタ間電圧VCEは小さくなります。
なのですが、負荷線を引いてみると特性グラフからはみ出す箇所が存在しますよね?
図8の点Aから左のことです。

点Aに関しては、ベース電流IBが30[μA]から40[μA]に上昇しても、コレクタ電流ICは変化していません。
この関係は、ベース電流IBが50[μA]になろうが60[μA]になろうが変わりません。
このことから、理想的には負荷線通りに各電流・電圧が偏移して欲しいのですが、この点Aから左側の特性は実際に描くことは無いことがわかります。
要するに、この場合はコレクタ-エミッタ間電圧VCEが大体0.8~1.0[V]になり、それ以下に変化することは無いのです。
この実質的なコレクタ-エミッタ間電圧VCEの最小値がコレクタ飽和電圧です。
「最大限度まで満たすこと。また、最大限度まで満たされていること。」を“飽和”と言います。
コレクタ電圧がこれ以上変化することは無いギリギリのラインだからコレクタ“飽和”電圧なのです。
同様に、ベース電流IBを大きくしてもコレクタ電流ICが増加しないギリギリのラインを“飽和”領域と呼んでいるのです。
4.飽和領域と遮断領域がスイッチング用途で使われる理由
トランジスタをスイッチング用途で使用する場合は、飽和領域(スイッチONの状態)と遮断領域(スイッチOFFの状態)を使用すると述べました。
ここを少し補足説明しておきます。
なんで飽和領域と遮断領域を使うのかよくわからないでしょう?
まず、飽和領域は以下のような特性を持っていると説明しました。
ベース電流IBを大きくしてもコレクタ電流ICが増加しない領域。
コレクタ-エミッタ間電圧VCEが小さくても、コレクタ電流ICが流れる領域とも言われる。
飽和領域におけるコレクタ-エミッタ間電圧VCEは、先程述べた通りコレクタ飽和電圧のことです。
実質的なコレクタ-エミッタ間電圧の最小値ですね。
飽和領域なら、この最小のコレクタ-エミッタ間電圧VCEでもコレクタ電流ICが流れる、トランジスタがONになるんです。
つまり、コレクタ-エミッタ間電圧VCEを最小限に抑えて、トランジスタをONにできる領域なのです。
言い換えると、考え得る限り損失の最も少ない条件でスイッチング動作が可能なのです。
だから飽和領域はスイッチONの状態と言っていたわけです。
遮断領域は以下のような特性を持っていると説明しました。
ベース電流IBが0[A]でもコレクタ電流ICが0[A]にならず、漏れ電流がわずかに流れる領域。
漏れ電流が大きくてもメリットは無いので、特性の良いトランジスタほど遮断領域が狭くなります。
ベース電流IBが0[A]ということは、ベース-エミッタ間電圧VBEも0[V]だということです。
つまり、トランジスタはOFFになります。
ただ、実物のトランジスタだとどうしても漏れ電流が発生してしまいます。
だからなるべく漏れ電流が少なくなる遮断領域で使用しているというだけです。
以上、「IC-VCE特性」についての説明でした。