今回は、「機械の安全保護対策」についての説明です。
1.初めに
絶賛稼働中の機械があったとして、普通その機械の近くには人が近寄れないように何らかの対策がしてあるものですよね?
機械を囲んでドアを設けることで意図的にしか近寄れなくしたり、センサで人が近寄ってきたことを感知させて機械の動作を緊急停止させたりと、その安全対策の手法は様々です。
これらの機械に対する安全対策ですが、実は国際的な標準規格によって規定されています。
ISO規格というヤツです。
日本の規格であるJIS規格にも対応する内容は規定されていますけどね。
今回は、そんな機械の安全保護対策はどういった思想によって行っているのか、またどんな保護対策が存在するのかという部分について解説していこうと思います。
2.3ステップメソッドとは?
機械安全に関しては、厳密にはISO 12100で規定されています。
この規格には、「3ステップメソッド」と呼ばれる機械の安全化を図るための重要な考え方がまとめられています。
その名の通り、安全保護対策をする手順を3つのステップに分けて考えるのです。
3ステップメソッドの項目は以下の通りです。
- 本質安全設計方策
- 安全防護方策・付加保護方策
- 使用上の情報
2-1.本質安全設計方策
本質安全設計方策は、機械の設計を工夫して本質的に安全を確保しようとする考えです。
『そもそも危険な構造にならないように設計すればいいじゃん』という発想です。
危険源である機械自体の持つリスクを考え、予め低減させることを目的としています。
だからステップの一番最初が本質安全設計方策なんですね。
ここで低減できないリスクについて、以降のステップで対策していくのです。
具体的には、「ガードまたは保護方策を使用しないで機械の設計または運転特性を変更することによる保護方策」とされています。
例えば、鋭利な刃物が駆動する機械があったとして、この機械の電源スイッチが刃物付近に配置されていたとします。
この場合、電源を入り切りをする際に毎回刃物に近づく必要がありますよね?
なので、刃物の動きに作業者の衣服が巻き込まれたりする危険性があります。
そこで、電源スイッチの配置を刃物から遠ざけて、不用意に人が近づくことを無くしたとします。
これが本質安全設計方策に当たります。
『刃物という目に見える危険物があるんだから、そもそもそこに近づかないような設計にしろよ』というわけです。
本当に本質的な部分では刃物自体を無くすのが一番ですが、工作のための部品まで無くせるわけがないので近寄らないようにするのです。
他には、角の面取りなんかも本質安全設計方策です。
テーブルなどの家具をイメージして欲しいのですが、普通角は丸く加工してありますよね?
角ばっていると衣服が引っ掛かって破けるかもしれませんし、転んでぶつかった際に大怪我をするかもしれません。
このように、どう考えても危険と思える箇所を設計段階で見直して排除しておくのが本質安全設計方策なのです。
2-2.安全防護方策・付加保護方策
本質安全設計方策で述べましたが、工作機械から刃物やドリルのような危険物を取り除くことは不可能ですよね?
その危険物を動作させること自体が工作機械の目的なんですから。
ということは、危険物に近寄って労災を引き起こすようなリスクはまだ残っているわけです。
そこで、本質安全設計方策だけでは充分に対策できない部分を補うのが安全防護方策です。
具体的な方策としては、危険源に近寄れないように防護柵・ガードを設けます。
『危険源を無くせないなら近寄れないようにすればいいじゃん』という発想です。
このように、防護柵・ガードを設置することで人の作業空間と機械の作業空間を空間的に隔離し、安全を確保するような方策のことを「隔離の原則」と言います。
機械の近くに人が居るということ自体がリスクなので、作業空間の分離は必須なんです。
ただ、場合によっては人が機械の作業空間に入らなければならないことがあります。
機械には定期的なメンテナンスが必要ですし、異常が発生して機械が停止したら原因を究明するために近づく必要がありますからね。
そんな時に機械が動作すると危険ですよね?
そこで、防護柵・ガードに設けたドアをしっかりと施錠して、人が侵入できない状態を保持している時にのみ機械を動作させるような安全防護策も必要になります。
人と機械の作業空間の隔離以外にも、人がやむを得ず機械の作業空間に立ち入った際は機械の動作を停止するといった対策が必要なのです。
このような方策のことを「停止の原則」と言います。
安全防護方策では、「隔離の原則」と「停止の原則」の2つの観点を大切にしましょう。
危険源を隔離し、必要に応じて危険源に人が近づく場合は機械を停止させる…一見安全対策は整ったように感じるかもしれませんが、実はまだ不十分です。
人が近づく場合は機械を停止させると言っていますが、この停止は“動作の停止”であって“電源の停止”とは限りません。
場合によっては電源を停止してしまうと復旧に時間が掛かったり、他の機械とのリンクが切れてしまったりするからです。
ということは、人が近くにいても機械は動くことができる状態になっているかもしれないんです。
機械の動作はプログラムによって決められています。
人が近くにいる場合の停止命令もプログラムの一種です。
では、このプログラムにバグが発生して停止命令が解除されたらどうなるでしょうか?
そう言われて想像してみると、現状の構成では機械を停止させることができないことがわかります。
その為、非常時に強制的に電源を落として機械の動作を止めるための措置が必要です。
例えば、非常停止スイッチを設けるとかですね。
非常停止スイッチは以下のような見た目をしています。
この目立つスイッチを押すことで、どんな状態だろうが強制的に電源を切ることができます。
非常停止スイッチの場合、このスイッチを意図的に回さない限りスイッチのON状態(電源OFF状態)が解除されることはないので、非常事態でも簡単に・確実に電源を落とせるのです。
このように、安全防護策に付加させる形で設ける対策のことを付加保護方策と呼びます。
安全防護策ではカバーできないリスクに対する方策ということですね。
ちなみに、非常停止スイッチの構造や使い方は、ISO 13850に規定されています。
ボタンの操作部は赤色・背景部分は黄色・形状はキノコ型・直接回路動作機構(後述)を設ける・手動でのみ解除可能…という具合に色々と定めてあります。
非常時の手段なので、誰でも見てわかる・同じ使い方ができるという風に共通化してあるんです。
非常口の案内マークがオリジナリティ溢れるものになっていたら、そこが非常口だと認識できないでしょう?
それと同じで、わかりやすさを重視しているんです。
2-3.使用上の情報
ここまでのステップで危険源である機械に対する安全策は取れているのですが、厳密には危険が全て無くなったとは言えません。
例えば、安全防護方策として防護柵・ガードを用意してあるけど、ドアを経由せずに防護柵を乗り越えて侵入されたらどうなるでしょうか?
普通はそんな阿呆がいることなど想定して設計しませんので、当然機械は動作しつづけます。
これは極端な例ではありますが、想定していない“もしも”はいつでも起こり得るんです。
だからこそ労災が無くならないわけですし。
そこで、機械に注意書きのラベルを貼り付けて、『こんなことはするなよ!』と使用上の注意点を表示するのです。
これが3ステップメソッドという考え方です。
結局言っていることは至極当然ではあるのですが、その当たり前を明文化することって大切なんですよ。
3.保護対策例
では、具体的な保護対策例をいくつか挙げていきます。
3-1.セーフティスイッチ
安全防護方策として防護柵・ガードを設けるわけですが、先程述べたように場合によっては扉から侵入する必要性が出てきます。
つまり、「ドアが開いている=人が機械の作業空間に居る」可能性を示唆しているので、この状態では機械を動作させても問題無いとは言えなくなります。
ただのドアの閉め忘れかもしれませんが、それはそれで危険ですからね。
そんな時に、扉の開閉状態を検知して、機械を動作させても危険が無い状態なのかを監視する機構が必要になります。
そこで役立つのがセーフティスイッチです。
ドア部分にセーフティスイッチを取り付けると扉の開閉状態に応じてセーフティスイッチのON/OFF状態が切り替わりますので、そのスイッチの状態をセーフティコントローラに送信します。
その信号状態に応じてセーフティコントローラが扉の開閉状態を判断するので、セーフティコントローラが機械をプログラムで動かしているコントローラ(PLCなど)に向けて動作許可/動作停止命令を出します。
こうしてドアの開閉状態から安全かどうかを判断して機械の動作を制御するのです。
このように、安全を確認できた時にのみ動作させる仕組みのことはインタロックと呼びます。
セーフティスイッチは安全対策のために設けるものなので、機構に工夫が施されていることがあります。
「直接開路動作機構」や「無効化しにくい機構」などです。
セーフティスイッチ自体にも結構な種類が存在します。
どんなタイプがあるのかもいくつか簡単に触れておきますね。
・接触式/非接触式
スイッチというと実際に押し込むことにより物理的に接点が切り替わるイメージがありますが、センサを用いて非接触で状態を判断しているタイプも存在します。
非接触式の場合、開閉動作による摩耗がありませんので、埃などの異物の影響が生じにくくなります。
・ロックあり/ロック無し
ON/OFFの検出に加え、施錠機能が追加されている種類も存在します。
ロックありがより安全性を高めたタイプです。
例えば、ロックありのセーフティスイッチを使用すれば、メンテナンスを終えて防護柵のドアを閉めた際に自動で鍵がかかるようにすることもできます。
この鍵は通電などの特定の手順を踏まなければ開錠することはできません。
ロックされた状態で無理に開けようとすると壊れます。
その為、セーフティコントローラにて、このロックの状態も確認・反映するように条件付けすることで、より堅実な安全機構を構成できるわけです。
3-2.セーフティライトカーテン
セーフティライトカーテンとは、遮光を利用してモノを検知するセンサのことです。
投光部が常にカーテン状に光を照射しているので、受光部がその光を認識しているのが正常な状態です。
機械の作業エリア(危険領域)を取り囲むようにセーフティライトカーテンを張っていたとすると、仮にそこを人が通過すると遮光されるので、作業者が立ち入ったと判断することが可能になるわけです。
その判断結果を信号として出力するので、コントローラとリンクさせて、作業者が立ち入った(遮光された)タイミングで機械の動作を自動で停止させるような機構を作ることができます。
ただ、「遮光=人の侵入」と捉えてしまうと、小さな虫がセーフティライトカーテンを横切っただけでも機械が停止してしまうことになります。
そんなことが起こらないように、セーフティライトカーテンではある一定以下の大きさの物質による遮光は許容範囲とするような設定が可能です。
ただし、最小検出物体の直径が決まっているので、その値以上に設定する必要はあります。
以上、「機械の安全保護対策」についての説明でした。