今回は、「ダイオード逆方向接続時の動作(ツェナー降伏とアバランシェ降伏の違い)」についての説明です。
1.初めに
ダイオードとは、電流を一定方向にのみ流すことが可能な半導体素子のことです。
陽極をアノード、陰極をカソードと呼び、アノードからカソードの方向に電流が流れます。
ダイオードについてあまり自信が無い場合は、以下の記事も参考にしてみてください。
では、カソードからアノードの逆方向に電流は流れないのかというと、そういうわけではありません。
ダイオードに逆方向電圧を印加した場合、微量ながら電流が流れ、そこから電圧を負の方向へ上げていくと大電流が発生します。
この現象は、ツェナー降伏もしくはアバランシェ降伏と呼ぶと過去の記事で説明しています。
今回は、ツェナー降伏とアバランシェ降伏は何が違うのかを詳しくまとめていきます。
2.ツェナー降伏とは?
一般的なダイオードはp型半導体とn型半導体を接合したpn接合ダイオードになっています。
このpn接合ダイオードに逆方向電圧を印加すると、空乏層(キャリアの存在しない領域)が大きくなり、電流が流れにくくなります。
ですが、ここに高電界がかかるとp型半導体の価電子帯とn型半導体の伝導帯の距離が近くなります。
すると、トンネル効果(通常は超えることができない領域を通り抜けてしまう現象のこと)により空乏層を電子が通り抜けます。
この現象のことをツェナー降伏と呼び、この時の電圧を降伏電圧と呼びます。
もう少し詳しく説明していきますね。
p型半導体とn型半導体のエネルギーバンド図は以下のようになります。
p型半導体は正孔が多いです。
正孔が多いということは電子が不足していて、少しのエネルギーで電子を取り込むことができるということです。
そして、電子が不足しているということはエネルギーは低い状態にあるということです。
このエネルギー準位のことをアクセプタ準位と呼びます。
このアクセプタ準位は価電子帯の真上に位置します。
その結果、図1左のようなエネルギーバンドになるわけです。
n型半導体に関しても考え方は同じです。
電子が多いので正孔に移動しやすく、電子が多いのでエネルギーが高い状態にあります。
このエネルギー準位のことをドナー準位と呼び、ドナー準位は伝導帯の真下に位置します。
その結果、図1右のようなエネルギーバンドになります。
この2つを接合すると図2のようになります。
後は逆方向電圧を大きくしていくと空乏層が狭まっていき、電子が空乏層を通り抜けるようになるわけです。
これがトンネル効果、ツェナー降伏の原理です。
N極の磁石とS極の磁石をある程度まで近づけると急激に引き寄せ合うようになるでしょう?
イメージはこれと同じで、間を隔てている空乏層が狭まってp型半導体の価電子帯とn型半導体の伝導帯の距離が近くなると、電子が飛んでいってしまうんです。
3.アバランシェ降伏とは?
アバランシェ降伏は、ツェナー降伏同様に逆方向電圧を印加していくとある点を境に大電流を発生させる現象です。
ただ、この現象の発生の仕方が全く異なります。
アバランシェ降伏では、高電界によって空乏層中を通過する電子が加速され、加速した電子が勢いよく原子に衝突して電子が飛び出し、その飛び出した電子が別の原子に衝突し…という繰り返し動作が発生します。
要するに、玉突き事故みたいな現象が起こります。
すると、雪崩的に電子と正孔が急増します。
だから、雪崩降伏という名称になっているわけです。
アバランシェって雪崩[avalanche]のことなんですよ。
電子の流れ=電流なので、これで大電流が流れてしまうんです。
ちなみに、降伏のことをブレークダウンと呼ぶのでアバランシェブレークダウンと表記されていたり、アバランシェ降伏ではなくアバランシェ崩壊やアバランシェ現象と表記されていたりと、表示の仕方は結構フリーダムです。
アバランシェと言っていたら基本的にアバランシェ降伏のことだと思いましょう。
4.ツェナー降伏とアバランシェ降伏のどちらが発生するのか?
ダイオードに負方向の電圧をかければ降伏電圧を超えるタイミングでツェナー降伏もしくはアバランシェ降伏が発生するわけですが、この2つの現象は同時に起こり得ません。
どういうことかと言うと、ツェナー降伏かアバランシェ降伏のどちらかが発生する降伏電圧に到達した時点で、もう片方の降伏現象は発生しなくなるんです。
降伏電圧が低くなっている方の現象しか発生しないようになっているのです。
では、どちらの現象が先に発生するのかというと、製品により決まっています。
同製品なら、どちらかの降伏現象しか発生しないわけです。
このツェナー降伏とアバランシェ降伏は、意図的にどちらを発生させるか調整が可能です。
そうして意図的にアバランシェ降伏を発生させて一定の電圧を得る用途に使用している例がツェナーダイオードだったりします。
では、どのように調整しているのかというと、ダイオードを構成しているp型半導体とn型半導体の不純物濃度を変更しています。
先に答えから述べると、不純物濃度が高いほどツェナー降伏が発生しやすくなり、不純物濃度が低いほどアバランシェ降伏が発生しやすくなります。
不純物濃度が高いとはどういうことかというと、p型半導体なら正孔、n型半導体なら電子がより多くなるということです。
要するに、不純物濃度が高いほどアクセプタ準位及びドナー準位が広がるので、空乏層が狭まり、ツェナー降伏が発生しやすくなるというだけです。
ちなみに、ツェナー降伏とアバランシェ降伏ではアバランシェ降伏の方が一般的なので、よく「アバランシェ降伏が発生する際の電圧のことを降伏電圧と呼ぶ」と説明されています。
ですが、ここで説明した通り、実際はツェナー降伏が発生する際の電圧も指しています。
ツェナー降伏とアバランシェ降伏はどちらか一方しか発生しないので、逆方向電圧を大きくしていって急激に電流が流れ始めたら、そこが降伏電圧であることに変わりはないです。
その為、厳密には「アバランシェ降伏もしくはツェナー降伏が発生する際の電圧のことを降伏電圧と呼ぶ」とするのが正しいです。
5.ツェナー降伏とアバランシェ降伏の特徴の違い
ツェナー降伏とアバランシェ降伏のどちらが発生するのかは不純物濃度で調整できるという説明をしました。
ですが、ここでそもそも疑問に思いませんか?
『逆方向電圧を印加して大電流が流れるという関係は共通しているんだから、どちらの降伏現象が発生しても問題無いのではないか?』と。
実は、ツェナー降伏とアバランシェ降伏には明確な違いがあります。
それは、温度特性です。
一般的に、ツェナーダイオードの降伏電圧は、5V程度よりも高いと正の温度特性、低いと負の温度特性を持つと言われています。
ツェナー降伏は負の温度特性、アバランシェ降伏は正の温度特性を持ちます。
要するに、ツェナー降伏が発生しやすいと温度上昇と共に降伏電圧が上昇し、アバランシェ降伏が発生しやすいと温度上昇と共に降伏電圧が減少します。
5V付近に関しては、負の温度特性と正の温度特性で互いに打ち消し合い、温度変化が小さくなります。
その為、温度補償をする目的で正の方向に繋いだツェナーダイオードと負の方向に繋いだツェナーダイオードが直列に繋がれていることがあります。
温度上昇と共に降伏電圧が前後して欲しくないですからね。
以上、「ダイオード逆方向接続時の動作(ツェナー降伏とアバランシェ降伏の違い)」についての説明でした。