今回は、「電線の許容電流と温度補正係数」についての説明です。
1.電線の許容電流とは?
電線には様々な種類があり、多々ある電線には個別に許容電流というものが設定してあります。
許容電流は、この電流まで流すことができるという最大値・許容上限値を指しています。
電線の導体部分は金属(大体銅かアルミ製)でできています。
ということは、電線にも当然抵抗値があるわけで、電流が流れると発熱します。
ジュール熱というヤツですね。
電線に電流を流せば流すほど大きな熱を発しますので、あるラインを超えると電線を覆っている絶縁体(絶縁被覆・シース)が熱に耐えられなくなります。
このラインが許容電流です。
許容電流を守らずに大きな電流を流した場合、絶縁体が溶融・発火して火災事故に繋がったりと非常に危険です。
その為、電線選択時は許容電流についてよく考え、使用用途に応じて適切なものを選定する必要があります。
基本的に許容電流にある程度の猶予を設けて選定・設計するのが一般的です。
マージンは大事なのです。
ちなみに、許容電流には長期的な許容電流を表すものと短期的な許容電流を表すものがあります。
基本的に許容電流と言ったら長期的な許容電流の方を指しています。
短期的な許容電流は長期的な許容電流より高めに設定されていますが、電流が流れてから電線に熱が発生するまでタイムラグがあるので、一瞬だけなら耐えれる電流値が大きくなるというだけの話です。
許容電流を理解するには電線やケーブルの基礎面もある程度必要なので、以下の記事も参考にしてください。
2.許容電流が上下する要因
電線には許容電流が設定されていることはわかったと思いますが、許容電流は場合によっては上下します。
例えば、電線の周囲環境温度が10℃の場合と40℃の場合を想像してみてください。
電線に電流が流れていて40℃で発熱していたとすると、前者は10℃の周囲環境温度により電線が冷却されるので電線温度は若干下がりますが、後者は電線温度・周囲環境温度共に40℃なので少なくとも電線温度が40度以下になることはありませんよね?
電線温度の上昇により絶縁体が熱に耐えられなくなるという指標が許容電流なので、前者の方が許容電流は自ずと高くなります。
このように周囲環境温度により許容電流は変化するのです。
周囲環境温度を例として説明しましたが、他にケーブルの心数や配線方法・配線箇所なども影響してきます。
心数は単純で、熱を発する電線同士が隣接している上にシースで覆っているので熱が逃げにくくなっているためですね。
どんな要因にせよ、熱が逃げにくくなるような構成・環境では許容電流が低くなってしまうということです。
3.メーカの設定している許容電流
電線温度の上昇により絶縁体が熱に耐えられなくなるという指標が許容電流なので、当然絶縁体の種類によってその値は変動します。
つまり、電線の種類ごとに許容電流は異なります。
電線の種類ごとに許容電流が異なり且つその許容電流は環境や配線方法などにより上下してしまうなら、ケーブルメーカは許容電流をどう設定しているのでしょうか?
答えは、“電線種類・心数(対数)ごとに周囲環境温度○○℃の場合の許容電流を載せている”です。
AWG28で心数3C、周囲環境温度20℃なら許容電流2.0A…といった具合ですね。(※ この値は適当です)
周囲環境温度は使用者の用途により変化するので、メーカ側で設定できるところまではしっかり計算してくれているわけです。
ちなみに、私は電線を開発する側ではなく使用する側の人間なので、その辺りの詳しい話はしないですので悪しからず。
ケーブルメーカによりますが、素直に許容電流と書かれていることもありますし、定格電流と書かれていることもあります。
データシートをよく読んで、間違えないように注意しましょう。
4.許容電流の温度補正係数
では、「周囲環境温度30℃の時の許容電流がデータシートに記されている電線を50℃環境下で使用したい」といった場合は許容電流についてどう考えれば良いのでしょうか?
ここで本記事のミソとなる温度補正の話が出てくるわけです。
電線を購入して使用する側の人はここだけ抑えておけば大体何とかなります。
設置箇所が熱を発している場合はまたちょっと考える必要がありますが、ここでは置いておきます。
温度補正だけを考える場合、以下に示す式に則って温度補正係数を求めます。
ケーブルメーカのデータシート上のどこかしらに「定格105℃」、「定格温度105℃」といった記載があるはずなので、それがTに当たります。
「周囲環境温度30℃の時の許容電流がデータシートに記されている電線を50℃環境下で使用したい」という状況の場合、T1に50、T2に30を代入して計算すれば温度補正係数を求めることができます。
この式から求めた温度補正係数を許容電流にかけることで、想定している使用周囲環境温度下での許容電流を求めることが可能になります。
よく使用する場合はExcelなんかに式を保存しておくと便利ですね。
最後にもう一度言いますが、許容電流を考慮しないと事故に繋がる要因になるので注意しましょうね?
以上、「電線の許容電流と温度補正係数」についての説明でした。