今回は、「リミッタ回路」についての説明です。
1.リミッタ回路とは?
電子部品には最大印加電圧というものが規定してあります。
その名の通り、『○○V以上を印加しないでくださいね』という値です。
リミッタ回路とは、印加電圧が規定の範囲内に収まるようにすることを目的とした保護回路のことです。
基準電圧の上限と下限のリミットを決める回路ということです。
ダイオードにはクリッピングという任意の波形からある値より上もしくはある値より下の成分だけを取り出すことができる作用があります。
順方向にしか電流が流れないことを利用した作用のことです。
この作用を利用してリミッタ回路が組まれます。
なので、リミッタ回路を理解するには、前提としてダイオードのクリッピング作用について知っている必要があります。
あまり自信が無い方は、先に以下の記事を参照してください。
2.リミッタ回路の動作
では、実際のリミッタ回路を見ていきましょう。
図1のような回路がリミッタ回路です。
最大振幅5[V]の交流電源VACに、ダイオードと直流電源を組み合わせた回路を並列に繋いでありますね。
この「ダイオードと直流電源を組み合わせた回路」がクリッピング作用に関わる回路なので、ダイオードと直流電源の向きがリミッタ回路の肝となります。
まずはD1と1[V]の直流電源の回路から考えていきます。
前提条件として、交流電源は矢印の方向を“正”、ダイオードは理想ダイオード(順方向時の電圧降下が無いダイオード)とします。
D1はアノードが端子A、カソードが端子Bの方向を向いています。
そして、カソード側に+1[V]の直流電源が配置されています。
ダイオードがONになる条件は、アノードからカソードの方向にしか電流が流れるように、アノード>カソードの電位になることです。
つまり、アノードである端子Aの部分に1[V]以上の電圧が掛かっている時にD1がONになります。
では、D1がONになるとどうなるかと言うと、図2のような状態になります。
結果、この部分に1[V]以上の電圧を加えても、1[V]より大きな出力が得られないことがわかります。
1[V]の直流電源が並列に繋がっていますからね。
逆に1[V]以下の電圧が掛かっている場合、D1に電流が流れない…開放された状態になり、交流電源はダイレクトに出力電圧VOになります。
その為、ここだけで判断すると出力波形は以下のようになります。
上だけ抉れましたね。
次に、D2と2[V]の直流電源の回路を見てみましょう。
考え方は先程と何も変わりません。
今度は、D2のアノードが端子B、カソードが端子A側になっていますね。
そして、アノード側に-2[V]の直流電源が配置されています。
つまり、アノードである端子Bに+2[V]以上の電圧が掛かっている時にD2がONになります。
言い方を変えると、カソードである端子Aの部分に-2[V]以下の電圧を与えれば良いわけです。
結果、この部分に-2[V]以下の電圧を加えても、-2[V]より小さな出力が得られないことがわかります。
この条件での出力波形は以下のようになります。
今度は下だけ抉れましたね。
この2つの回路を組み合わせているので、最終的には以下のような出力波形が得られるようになります。
これがリミッタ回路の原理です。
3.リミッタ回路自体の定義は曖昧
ここでの説明では、「リミッタ回路は正と負の両極性をクリッピングするもの」という認識になったかと思います。
なのですが、正か負のどちらか片方の極性のみクリッピングしていてもリミッタ回路だとしていることもあります。
どちらが正しいのか正直調べてもよくわかりませんでした。
そもそもリミッタ回路ではなくリミット回路と呼んでいることもありますし、片方の極性のみクリッピングしている場合はクリッピング回路と呼んでいることもあります。
明確な定義が出てこないんです。
なので、クリッピングとリミッタ(リミット)という言葉の意味だけ覚えておいて、後はその時々で判断すれば良いと思います。
意味は通じますよ、たぶん。
4.リミッタ回路の用途
リミッタ回路というよりクリッピング作用の実際の用途についてなのですが、動作説明したような交流波形をクリップするような使い方はほとんどしません。
どちらかと言うと、ノイズの影響を抑制するために使用します。
例えば、最大振幅3.3[V]で一定周期の方形波があったとします。
このような信号を入力されるICは、印加可能な電圧範囲が決まっています。
仮に、-0.2[V]~+3.6[V]で動作させるようにデータシートに書かれていたら、しっかりとその範囲内で使用する必要があるのです。
では、この方形波にノイズが載って、一瞬5[V]になってしまったとします。
すると、ICの性能によっては過電圧だと判断して、動作を停止してしまうかもしれません。
そんな時にリミッタ回路を形成することで、急なノイズ成分の影響を抑えることが可能になるというわけです。
以上、「リミッタ回路」についての説明でした。